Visiting teacher's office 研究室訪問
実践女子学園では、多くの教員が各分野において最先端の研究を行っています。
今回は短期大学部の先生にご登場いただき、研究内容についてお話していただきました。
「国語辞典の可能性」を探って
携帯?スマホがある現代、国語辞典をひらいたのはどれくらい前のことでしょうか。
日本人にとっての国語辞典、そして日本語とコミュニケーションについて語っていただきました。

日本語コミュニケーション学科 准教授
大塚 みさ Misa Otsuka
メディアが変わると辞書の利用も変わるという、おもしろい傾向があります。20年前の調査では、辞書を使う第一の目的は「漢字の字形を確かめるため」でした。文字を書くために、正しい字形を知る必要があり、辞書が使われていたわけです。ところが、その8年後に私が調査したときには「言葉の意味を調べるため」と答える人の方が少し多くなっていました。それが、さらに数年後にはもっと多くなり、「漢字の字形を調べるため」に大差をつけていました。これは、PCや携帯?スマートフォンが普及して、文字を書くことが少なくなったことと、わからない漢字はすぐに検索して調べられるようになったからだと考えられます。辞書を利用するのは、わからない言葉の意味を知りたいときくらいしかなくなってしまったんですね。ただ、去年調べたときには、また「漢字の字形を調べるため」の数値が少し上がっていました。

ここで注目したいのは、スマートフォンのアプリです。今は、辞書のアプリもたくさん出ているため、書物としての辞書でなくアプリを活用して、漢字の字形を調べていると推測されます。漢字の字形を確かめたいというニーズは決してなくなりつつあるわけではないのです。私は、ここに辞書の可能性、辞書側の努力の必要性があると考えています。実際、私の授業を受講する学生は「敬語を上手に使えるようになりたい」「日本語を正しく適切に使えるようになりたい」という希望を持っている人がほとんどです。辞書には、言葉の意味だけでなく、ニュアンスの違いや、語種表記、アクセント、漢字書き?ひらがな書きの適切な使い分けなど、さまざまな情報が載っています。日本語を深く知るうえで、大変有益な書物です。ネイティブの日本人でさえも「日本語を正しく適切に使えるようになりたい」というニーズがあるわけですから、もっと工夫のある辞書編集がなされれば、よりニーズに応えられるのかもしれません。
普段の授業では、日本語をより深く知る、正確?適切に使えるようになるという、より実用的な観点でテーマを設けています。例えば、「日本語の発見~比べてわかる、日本語の魅力~」では、新聞記事の比較、英訳されたコミックと原本のコミックとの比較などを通して、日本語を見つめ直す科目内容になっています。

昨年のテーマは「国語辞典における言語の運用に関わる情報—その現状と可能性—」
日本語には特有のオノマトペがあり、特にコミックでは顕著です。皆さんも「ガーッ」ですとか「ゴロゴロ」といった表記を見たことがあると思います。英語にはそれらに該当する表現がないため、文章になっていたり、そのまま「GOROGORO」と表したりしています。また、サン?テグジュベリの「星の王子さま」はいろんな言語に訳されていますので、その違いを比較させました。すると、言語から発想の違いまで見えてくるんです。例えば、日本語では「私」があまり出てきませんが、英語?中国語ではかなり前面に出てきます。このように、日本語をいつもと違った視点で見つめ直すことで、日本語や日本語と社会の関わりへの気づきや発見を持ってほしい、というのが授業の狙いですね。
授業と私の専門研究は、少々離れているかもしれませんが、学生はもちろん、より多くの方々に辞書をもっと使ってもらいたいと思っています。今は電子辞書やスマートフォンのアプリかもしれませんが、そのほんの始めの数行だけでなく、ニュアンスや使い方まで知って活用してもらえたらと思います。ネイティブでも、日本語に自信があったり、言葉に興味を持ったりしていると、コミュニケーションが円滑にできますし、何より、日常をより豊かに楽しめると思っています。