卒業研究要旨(2022年度)

DIY賃貸~ここでしか体験できない暮らし~

2022年度卒業研究 空間デザイン研究室 飯野楓

1.はじめに

 従来、退去時の原状回復が原則だった賃貸住宅の中で、借主が自由に住宅改修を行えるDIY型賃貸住宅の人気が高まっている。本研究では、DIY賃貸の管理者や住人の声からその魅力を探る。

2.調査概要

表1の2か所のDIY賃貸を対象に、2022年11?12月に管理者や住人に対するヒアリングを行った。

3.DIYの実態

 いずれも原状回復不要。K賃貸は一面の壁及び床のみDIY可能。A賃貸は構造に影響がない範囲でDIY自由。
 管理者による素材や道具の提供、運搬車の貸与、アドバイスや施工を行うなどのDIYサポートにより、様々な装飾など個性のある空間が実現されていた。

4.住人にとっての魅力

4-1.自分でつくる

 自分で自由に部屋をいじれることや、壁に絵を描いたり装飾をしたりして雰囲気を作れることは、借主にとって大きな魅力である。DIYする上で考えたことが、環境に記憶されている。

4-2.自分らしいライフスタイル

 自分の手を加えた空間で、他者と楽しく過ごせたり、様々なインスピレーションを得たりできる空間となっている。
 人によっては、私設図書館、アトリエ、占いなどを行っており、自分のライフスタイルの確立につながっている。

4-3.前住人の環境を受け継ぐ

 前住人の描いた絵や塗った壁、家具や収納などを利用していることが多い。既に他者の手が入っていることで、自分も気楽に手を加えることができる。また、自分では思いつかない工夫や発見にもつながっている。

4-4.DIYを介した他者との関わり

 DIYの際に友達を連れてきたり、他の住人に手伝ってもらったりすることで、コミュニケーションにもつながっている。他の住人のアイデアを参考にすることも多い。
 住人同士も、音や視線によるつながりを感じたり、SNS等を介して連絡を取り合ったりしている。時には部屋に遊びに行くことや、ピザパーティーを開くこともある。
 他者との関わりの多さがこの住宅の魅力になっており、見学者を歓迎するなど、他者に開くライフスタイルにもつながっている。

5.部屋に対する愛着と継続

これらの魅力は、住み手の部屋に対する愛着につながっている。住み続けたいという声も聞こえた。 一旦離れても戻ってきたり、SNSを通じて退去後も住人同士の関わりが続いたりすることもある。こうした愛着の詰まった環境が次の住人にも受け継がれることが期待される。

(表1)調査対象地概要
K賃貸
所在地:東京都八王子市
間取り:47部屋(1/2がDIY賃貸)、1R。18.42㎡、家賃42,000円?
住人:主に学生及び若い社会人
調査対象者:管理人、住人?元住人6人

A賃貸
所在地:東京都町田市
間取り:31部屋。1R?2LDK
家賃:55,000?82,000円
住人:学生からアーティスト、構成作家等様々
調査対象者:大家、住人9人

(図1)DIY賃貸における生活ならではの魅力



2003-2023, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2023-02-10更新