卒業研究要旨(2023年度)

おすそわけのまち ?市街化調整区域の新しいかたち?

2023年度卒業研究 空間デザイン研究室 富所友香

1.背景と目的

 私の地元は、昔から農業が盛んな地域であったことから昭和47年に市街化調整区域に指定され、計画的 な都市づくりや自然環境と農地の保全のため、様々な開発が抑制されてきた。その結果、自治会などの住民 が集まる場や昔ながらの文化が現在も残っていたり、 庭先での立ち話やおすそわけをすることがよくあったりするなどの良い地域コミュニティが育った。私は、 地域の人と近い距離でコミュニケーションをとることで安心感を感じられるこの環境が好きであり、今後も残し続けていきたいと考える。

 しかし、市が定める都市計画においては、市街化調整区域での人口増加により都市の外延的拡大が進行していることを課題としており、2045 年までに、基幹的な公共交通沿線に人口や都市機能を集積させた複数の拠点(市街化区域)を形成する「拠点ネットワーク 型都市構造」による、コンパクトで持続可能な都市づくりを目指している。

 これまで市街化区域と共存することで成り立ってきた地元地域であるが、この計画が実現すると完全に切り離されてしまい、地域を守っていくことができない。これらを踏まえ、地域内での結び付きをさらに強くした、より良いコミュニティのあるまちをつくることを目的とする。

2.敷地概要

対象地:静岡県浜松市浜名区八幡の一部
敷地面積:約14,300m2
人口(世帯数):18人(8世帯)

 住民の年代別の内訳は、10代?30代?40代が 2人ずつ、50代?60代が3人ずつ、70 代が6人と親世代や祖父母世代のみで暮らしている世帯が多いため、広い敷地や建物を持て余している。農地の活用もできていない。

3.設計コンセプト

「地域全体が家族のように暮らすことのできるまち」
 現代の個々の住宅に閉じこもるような暮らし方ではなく、積極的に外部に開くことで地域全体の結束力を高め、地域の存続に繋げる。

4.設計手法

(1)線引き前宅地(市街化調整区域に指定される前から宅地であった土地)では、現在と同じ敷地?用途?規模の建物の建替え?増築は許可不要で建築可とされているため、既存住宅の建替えを行う。

(2)1つの敷地に母屋と複数の離れを建て、土地所有者が母屋で暮らし、子世帯や外部から来た人が離れを間借りするというかたちをとることで、住民を増やすと同時に持て余した敷地を活用する。キッチンを母屋にのみ設置し共同で使用することで、母屋と離れを用途不可分の関係にする。

(3)2つの棟を斜めに繋げる形を各建物の基本とし、敷地内に配置する。玄関扉を設けず、土間空間に面して設置した複数のガラス窓から出入りできるようにする。土足で建物内の通り抜けができるだけでなく、建物の正面を曖昧にすることで360°様々な方向から外部と繋がることができる。

(4)それぞれ異なる機能を持つ各建物のリビングを開放し、地域内で共有することで様々な空間をもたらすと同時に、コミュニケーションのきっかけをつくる。 5建物の隙間に形成される路地などの外部空間にも、コミュニケーションを促す仕掛けを取り入れ、農地を活用できる仕組みも整える。

5.まとめ

 この計画により、充実したコミュニケーションがあることで、地域住民の力だけでも豊かに暮らしていくことができるということを提案したい。

(図1)対象敷地
(図2)制作イメージ



2003-2024, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2024-02-20更新