卒業研究要旨(2024年度)

利用者や地域との関係性からみる駅前商業施設の研究
 ?海老名の「ビナウォーク」と「ららぽーと」を対象として?

2024年度卒業研究 空間デザイン研究室 石羽根夏実

1.はじめに

 海老名駅を挟んだ両側には、「ビナウォーク」「らら ぽーと」というコンセプトの異なる2つの大型複合商 業施設がある。どちらも駅近にありながら、利用のさ れ方は異なっている。本研究では、両者の地域施設と しての質の違いを考察する。

2.調査概要

 表 1 の商業施設を対象として以下の調査を行った。

(1)観察調査
 ららぽーとは 10/2 と 10/5、ビナウォークは 10/7 と 10/20、平日休日1日ずつ実施した。10 時~ 18 時 の2時間毎に、休憩空間の着座者の過ごし方を観察し、 属性や行為を記録した。

(2)アンケート調査
 各商業施設 11/5 ~ 12/1 の期間で 11 時~ 16 時の 時間帯、各施設 50 人ずつ合計 100 人の利用者を対象 にアンケートを実施した。

3.各商業施設の特徴

3-1.ららぽーと

 観察調査では、フロアごとに過ごしている人の層、 過ごし方に特徴が見られる。1階では飲食物販店が 多く、ほとんどの着座者が飲食をしていた。周辺店 舗の存在、人の視線などにより、各場所の過ごし方 は限定されていた。アンケート調査では、自動車や 電車で来る人が多く、買い物目的で利用している人 が多かった。周辺の他施設を利用する人は少ない。
 ららぽーとは目的性の高い機能を多く充実させ内部に顧客を囲い込み、1か所で目的を完結させる施設 である。地域の文脈とは切り離された独自の環境であ る「閉鎖型?内部充実型」の施設と呼べる。

3-2.ビナウォーク

 観察調査では、平日は落ち着いた雰囲気で、時間帯 によって保育園児、高齢者、中高生などが訪れ、好き な場所で思い思いに過ごしていた。休日は近隣の組織 や団体と連携した様々なイベントが催され、多くの人 で賑わっていた。アンケート調査では、近所から徒歩 や自転車で来る人が多く、目的は明確ではなく様々で あった。周辺の商業施設も一緒に利用する人が多く、 近隣も含めて移動しながらの利用者が多い。
 ビナウォークは近所の人が気軽に立ち寄って自由に 過ごせる広場のような居場所を提供する施設である。 目的性は高くなく、出入りも通過も自由で、地域との 連続性が特徴である。周囲との関係の中で成り立つ「開 放型?居場所提供型」の施設と呼べる。

4.まとめ

 ららぽーとのような閉鎖型施設は、顧客のニーズを 館内で満たしていて、利便性や快適性が追求されてい る。実際、顧客満足度は高く、賑わいもある。ただし 地域とは切り離された場で、周囲への波及効果は薄い。 近くに利便性、快適性の高い閉鎖型施設ができた場合、 顧客の取り合いになる可能性がある。
 一方、ビナウォークのような開放型施設は、まちの 中にあり、気軽に来て自由に過ごせる居場所を提供し ている。買い物だけではなく、日常生活の一環で利用 されている。地域との密着度が高く、周囲への波及効 果もある。(それは海老名市の都市計画コンセプトと も合致した使われ方に近いと言える。)
 開放型商業施設は、単なる消費施設ではなく、地域 施設としてのありかたのヒントになる。そこには、立 地の地域性を取り込み、海老名独自の地域性を醸成し うる施設としての可能性があるのではないか。

(表1)対象施設概要
(図1)関係模式図



2003-2025, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2025-02-16更新