卒業研究要旨(2024年度)

地域や人々とつながるパン屋の役割と可能性

2024年度卒業研究 空間デザイン研究室 奥山由唯

1.はじめに

 近年、コミュニティカフェや個人書店など地域の居場所として人と地域をつなげる役割を持つ店が注目されている。パンは多くの人が日々食べる食材として、生活に密着している存在である。本研究では、地域の中で生活により身近なパン屋にも人と地域をつなげる役割があると考え、その可能性を探る。

2.調査概要

 表1のパン屋を対象に以下の調査を行った。

?調査方法
?(1)ウェブ調査:パン屋、店主に関する記事による情報収集
?(2)観察調査:パン屋のイベントや日常の交流の観察
(3)地域調査:パン屋周辺の地域情報を収集
?(4)インタビュー調査:「kico」のオーナー?店員、「Bibli」運営事務局へ実施

3.調査結果

3-1.神田川ベーカリー

 地域に密着し直接向き合う対面式のパン屋で、外にはデッキスペースも設け、スタッフの姿を地域に見せるとともに地域の様子を直接見ることができる。スタッフも地域住民であり、身近な存在となっている。すべてのひとが安心できる素材のパンで生活に寄り添い、ちょっとした幸せを届けようとする。利用者の小さなコミュニティが神田川ベーカリーをきっかけとして新たなコミュニティにつないでいる。

3-2.シンボパン

 祖父の代からの自転車屋を受け継いでパン屋を開業し、過去から地域とのつながりが継承されている。飽きのこないパンで生活を引き立てあうとともに地域のアーティストのグッズ販売、ワークショップやイベントを開催し、ヒト?コト?モノとの出会いをつくっている。シンボパンは幅広い世代の居場所であり、多様なものと出会う場でもある。

3-3.ハンドメイドベーカリーニコリ

 地元の素材にこだわった多彩なパンとバス沿いから見える大きな看板で、地域の人々に広く認識されている。店内は工房まで見渡せる空間で、作る人、買う人、通りがかる人のコミュニケーションが生まれやすい。地域に対する働きかけ、コミュニケーションツールとしてSNSを持続的に活用し、店舗を超えて生活に密着した存在となっている。SNSを通して人ととのつながりが深まり、地域の様々な情報が集まっている。

3-4.kico

 地域の図書館を改修したBibliというまちづくりの拠点の中枢にあり、人々を集め、人々をつなげる役割がある。手作りで美味しい素材の食パンを提供し人々の生活に密着した存在となっている。スタッフは利用者の顔を覚え、密にコミュニケーションを行い、またワークショップなどの人々が参加するイベントを開催している。店内は独特の雰囲気づくりで非日常を演出し、きめ細かいサービスで人々の生活や気持ちを豊かにしている。

4.まとめ

 パンは身近な存在として密着しやすく、作り手の想いを伝えたり、話題として人同士をつなげるきっかけになる。またパン屋は、店舗空間、スタッフ、イベント等を通し、利用者とパンとの会話、それぞれの地域環境に合った独自の方法で、利用者と地域を媒介し、出会わせ、つなぐ役割を持っている。両者の媒介力を持つパン屋は、地域の中に居場所をつくり、地域に影響を与え、人々をつなげる拠点となる可能性をもつと考える。

(表1)対象施設概要
(図1)パンとパン屋の持つそれぞれの役割



2003-2025, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2025-02-16更新