卒業研究要旨(2024年度)

地元東林間を音楽の街に

2024年度卒業研究 空間デザイン研究室 田中綾奈

1.背景

 電子機器の普及から音楽は昔より人々に身近な存在になったにも関わらず、実際に音楽ホールに足を運ぶ人の数は増えていない。そのため、同じ音楽をみんなで聴くことで生まれる一体感を味わえる機会は徐々に失われている。
 私は頻繁にライブに通う中で、ライブ会場の空間は日常空間から離れた特別感をもたらしてくれることに気づいた。その環境下において、初めての出会いや巡り合わせがあることは予想でき、それが制限されてしまう環境は非常にもったいないと感じた。

2.目的

 ライブを楽しみたい人だけでなく、様々な理由でライブに行けない人、ライブに行く勇気が出せない人に向けて、ライブをもっと身近な存在にする空間を提供することで、音楽の楽しみ方の幅を広げることを目的とする。
 場所?人?ジャンルを問わず、音楽を自由な聴き方で楽しめる空間を実現することで、新しい人やジャンルとの出会いにワクワクする空間を実現させる。

3.敷地概要

?神奈川県相模原市南区東林間商店街
 商店街の通りやポイントカードの名前から、かつて東林間と音楽は密接な関係にあったと予想できる。このことから近年失われている東林間の音楽としてのつながりを取り戻し、活気あふれる街を再興するために、この敷地を選定した。

4.設計概要

?敷地面積約10,400m?
?用途コンサートホール、飲食店を含む複合施設
?エントランスからホールに向けて高さの異なる小スポットを細かく配置することで、ホールだけでなく自然とかでスペースなどの目的としていないスポットへ誘導させる
?スポットの壁はガラスを多く用い、隣スポットへの視線があえて交わることで、コミュニケーションを誘発させる
?ストリートライブやストリートピアノを取り囲むように休憩スペースを配置する
?各スポットにはカフェやレストラン、音楽に関係するライブラリーなどを配置し、ライブを目的としていない人も楽しめる空間に
?ホール大:ヴィンヤード型(1,620m?、1,342席)
?ホール中:エンドステージ型(483m?、494席)
?ホール小:平土間型(324m?、225席)

5.設計コンセプト

 1つの音楽をみんなで楽しむという“特別感”を味わう目的から、ホール自体は必要な機能を取り込んだ既存のホールを参考に配置した。敷地内に大?中?小のホールを設けながらも、ストリートライブのように自然発生的な音楽が楽しめる空間を同時に作成している。
 各ホールは、多ステージ型や外からのぞけるオープン型など、3つのホールがある状況を活かし、それぞれの色が出る設計を行なった。
 現在多くのホールは、公演が終わると会場からはすぐに退場し、その周辺で滞在することは不可能なことが多い。新たな出会いを推進するためには終演後にくつろげる空間づくりが必要である。そのため、会場外でコミュニケーションが取れる場所や音楽について学べるライブラリーなどを設けた。その上で、音楽を目的としない人も自由に過ごし共生できる空間づくりを心がけた。
 また、敷地内で入り口から直接ホールに向かいそのまま帰宅することがないように、あえて様々な障害を配置することで、新しいジャンルや人との出会いを開拓する手段をとった。
 ホール内での特別感はそのままに、駅からホールに向かって、徐々に日常から非日常へグラデーションのように引き込まれるような世界観を演出する。

(図1)配置図



2003-2025, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2025-02-16更新