Space Design Labo, JISSENUniv.
2025年度卒業研究 空間デザイン研究室 香川志都
本研究では、社会に開かれた活動を積極的に展開している複数のお寺を対象に、どのような思いや考えのもとで取り組みを行っているのか、またそうした取り組みを通じて、お寺が現代社会において果たしうる役割とその可能性について検討する。
調査対象としたお寺はいずれも「現代社会の中で、お寺がどのような役割を担うべきか」を意識している。その背景には、寺離れの課題や、地域コミュニティの希薄化といった社会的課題があり、従来のお寺の在り方が問い直されている。そうしたお寺の取り組みを、類似性に基づいて整理すると、お寺の取り組みに三つの方向性が見出された。
地域課題を明確に意識し、それらに向き合い解決を目指す取り組みである。光明寺の「大人食堂」は、孤食傾向にある住民に食事を囲む場を提供し、人とのつながりを回復する役割を果たしている。功徳院では「ソーシャルテンプル」を軸に、寺GO飯や高校生の居場所づくりなど、多世代を支える幅広い活動が展開されていた。
お寺が「立ち寄れる場所」として機能するための空間づくりを行う取り組みである。神谷町光明寺では境内をオープンテラスとして開放し、住民や会社員が気軽に過ごせる街角の居場所を生み出している。広福寺では、多様な背景をもつ人々が自然に出入りできるよう、「人が自然に通り過ぎていく場所」であることを重視していた。
お寺には、宗教施設としての価値と公益性を保ちながら地域へ開く意識がある。簗田寺では、イベント運営において「資本主義的な発想に偏らないこと」を掲げ、利益より中立的立場を重視していた。また複数のお寺から「社寺が観光地化?テーマパーク化してはならない」との懸念が示され、お寺の本質を守りつつ地域と関わる方法が模索されている。
お寺は問題を直接的に解決する場ではないが、寄り添いを通じて人々を社会とのつながりを結び直し、社会的処方のための地域資源としての役割を果たそうとしている。お寺がどのようなプロセスを経て地域の社会的役割を担うのかを3つの段階で整理した。
お寺としての敷居を下げ、明確な目的を持たなくても立ち寄れる場として空間を開く過程である。また「お寺の活性化計画」などを通じて、お寺を社会資源として捉え直すことも含まれる。人々が入りやすい雰囲気やきっかけを意識的に整え、多くの人がお寺に来訪するハードルを下げることが意図されている。
こうした場に集まってきた人たちの関係性を変化させ、初めは個別に存在していた小さな集まりを、次第に一つの大きな輪へと繋いでいく過程である。お寺特有の利害関係のないニュートラルな立場や、用途を限定しない空間である点が、異なる背景を持つ人々の交流を促している。その結果、分断されがちな地域コミュニティをつなぐ役割を果たし、コミュニティを越えたつながりが生まれている。
人とのつながりや居場所が、結果として社会的処方としての機能をもつ場へと発展していく過程である。日常的な関わりの中での相談や、「介護者のこころのやすらぎカフェ」における情報共有、「寺GO飯」や「大人食堂」といったセーフティネットとしての居場所づくりを通じて、孤立していた人々が精神的に回復し、次の行動へと進むきっかけが生まれている。
対象としたお寺では、お寺の中立的な立場、社会から求められる公益性、お寺特有の空間、人々に寄り添う姿勢等の資源を生かした多様な取り組みが認められた。こうしたお寺の役割は宗教的実践にとどまらず、分断が進む社会において、人々が再び関わり合うための基盤をつくり、社会を支え再構築する拠点となり得る。
(表1)調査対象?調査概要
調査対象:龍雲寺 広福寺 功徳院 江東区光明寺 簗田寺 神谷町光明寺 宗禅寺 平安院 照恩寺 普明寺
ヒアリング内容:①イベントや取り組み ②イベント以外の日常(普段) ③地域とのつながり
調査期間:2025年10-11月
2003-2026, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2026-03-11更新