下山 肇 先生
日常を、今の自分を全肯定して
ワクワク楽しい生活を、社会を実現しよう!
下山 肇
Hajime SHIMOYAMA
美学美術史学科
専門分野?専攻 空間デザイン、造形、アートワークショッププログラム開発?実践
Hajime SHIMOYAMA
美学美術史学科
専門分野?専攻 空間デザイン、造形、アートワークショッププログラム開発?実践
[プロフィール]東京造形大学造形学部デザイン学科Ⅰ類(視覚伝達計画)を卒業後、同大学の研究生として活動。その後、さまざまな建築?空間?環境系のデザイン事務所勤務を経て、並行して自身のデザイン研究所を主宰。多摩美術大学や日本工業大学、群馬県立女子大学、神奈川県立の高校など教育現場でも多くの経験を積み、2011年より現職。
「3つのポイントで分かる!」この記事の内容
- アート作品のデザイン、空間デザイン、ワークショップなどの活動を大学時代から継続。
- デザイン実技の授業やワークショップを通して、誰もが本来持っている創造性を再認識してもらう。
- ワクワクを他者と共有し未来につなげる人材を育成するために、学生の学びと社会をつなぐことをサポート。
活動が次の活動につながり、自然と今の自分がいる

アート作品のデザインや空間デザインといった創作活動はもちろん、ワークショップの開発?実施も、大学時代からのライフワークでした。誰かの紹介で一つの施設でワークショップを実施すると、「ウチでもやってください」と自然と声がかかるようになりました。
創作活動も同じです。大学の研究室時代に公共施設のパブリックアートを任せてもらったつながりで、卒業後には1級建築士事務所に勤務することになり、そこからの縁で専門学校の非常勤講師になりました。教えるために自らも勉強しながら専門学校の講師を続けていたら、それが「実績」となり、他の専門学校や大学、高校などからも声をかけていただけるようになりました。そして、今、実践女子大の教壇に立たせていただいています。すべての経験が実績となり、「今」の自分がある。自然な流れの気がしています。
本来だれもが持っている創造性を取り戻してほしい

現在は主に教職課程を選択している学生たちを対象に、デザイン実技やアート?プロジェクト実践の授業などを担当しています。授業で心がけているのは、学生たちに子どもの頃のような創造性を取り戻してもらうことです。
子どもって、誰に言われなくても勝手に絵を描いたり、粘土で何かを作ったりしますよね?成長して社会性が伸びてくるに従い徐々にその創造性が閉じていき、絵を描いたり、造形物を作ったりするハードルが上がってきます。私は授業やゼミ、そして学外でのワークショップを通じて、学生や参加者に一旦閉じてしまった創造性を再び開いてもらいたいと思っています。
「絵が苦手」と思うのはお手本通りに描けなかったり、塗ろうと思っていたところから絵の具がはみ出したりして「失敗した」と思うからですよね。でも、それは本当に失敗なのか?お手本と違ったり、はみ出したりしたことで、かえって面白いものができるかもしれない。アートに正解はありませんから。失敗と思ったところから、思いがけない素晴らしい作品に育つこともある。それが「アートの魔法」です。学生だけでなくワークショップの参加者に対しても、本人が「失敗だ」と思っているものでも「でもここがいいね」と言い続けるようにしています。すると徐々に、自分で失敗と思いこんでいた作品に潜む「良さ」に気づき、自由な創造力を発揮できるようになっていきます。
若い人たちと向き合うために、常に自分をアップデートする

最近では医療環境の光空間デザインや植物園でのARアートなどのプロジェクトや福島県飯舘村や相馬市での「地域創生」をめざし、地元を離れた出身者がが地元のために何かをやりたいという想いに応えるワークショッププロジェクトを協働しています。2025年度開催の相馬市のワークショップでは、授業の中で学生たちがプログラムを開発しました。地元の歴史的文化遺産である「中村城」をテーマにワークショップで何をどう作ってもらったらいいかをイチから考えていきました。お城をどう表現するか?ということで、画用紙を切ったり、貼ったり、重ねたりしているうちに、ある学生は「城壁」を作ることでお城を表現したり、またある学生は「屋根の形」を表現したり、また別の学生がその屋根の形から、S?O?M?Aというアルファベットの形をもとに作れないかと発想してみたりと、とにかく思いついたアイデアから即、手を動かしてかたちに現わしていきます。作ったら完成ではなく、さらに作ったものをみんなで共有しあい、そこからまた発想を広げてどんどんと創作を重ねていくということを続けていくことで、徐々にプログラムが完成されていきます。今回面白かったのは開発をすすめるうちに、「頭にかぶっちゃえ!」という発想が生まれ、そこからいつでも相馬市のことをを「思い浮かべる」ことを象徴する「かぶるお城」を作るというプログラムにたどり着いたことです。かぶるとみんなが自然に笑顔になってしまうことは私にとっても面白い発見でした。
私自身、もちろん「好きだから」というのが創作活動やワークショップを実施する動機ではあるのですが、もう一つ、若い人に教えるのなら自分自身がアート?デザインを体現し続けていなくてはダメだと考えています。そのうえで、さらに自身の過去の成功経験や価値観に無意識にとらわれることなく、常にアップデートできる柔軟性を持つことが重要だと考えています。
誰もが楽しめる民主化したアートで、ワクワクした生活を実現

最近の私の研究テーマのひとつは「創造性の民主化」です。アートは「特別な人」が行う行為ではなく、人は皆「それぞれの特別」を持っていると考えているからです。その「それぞれの特別」を持ち寄ってかけ算することで素晴らしいアートを作れるのではないか。その体験をもとに誰もが常に「疑問と好奇心」を持ち続けられる社会を目指すことでより良い未来が拓けるのではないか。と考え、日々創作やワークショップ、授業といった日々の活動を行っています。
私は人生でも、創作活動でも直近の「目標」をあえて決めず、「きっかけ」だけを用意します。もちろんこうありたいという揺るぎのない「目的=ヴィジョン」があることが前提ですが、今の時代、目標を決めても元となった前提はすぐ変わってしまいますし、そもそもその「目標」を決めたのは「過去の自分」ですから。それよりも「今の自分」が大切。一歩行動を起こした瞬間に現れるモノやコトのなかに、さっきまでの自分には気づけなかった新しいワクワクが隠れていないか、常にアンテナを張っておきます。目標を決めない=過去にとらわれないことで、人間は柔軟になれます。「今」を、「今、自分の出会った現象」を、「日常」をすべて肯定する。そうできれば、幸せですよね。
学生たちにも、どんな状況においても、どこかに価値を見出せる力を養い、毎日が驚きや楽しみで満ちた、ワクワクした暮らしを送ってもらいたい。そしてその喜びを他者と共有し、未来へ伝えていけるような社会人になってほしいと願っています。そのために、アート、デザインを通して学生の学びと社会をつなぐことをサポートする指導を、常に心がけています。