先輩たちの卒業論文紹介
先輩はどんなテーマで書いたんだろう?
4年間の学業の総決算として、一定の水準に達した卒業論文をまとめることには大きな意味があります。400字詰め頼稿用紙換算で100枚、あるいはそれ以上のボリュームの論文をまとめることは、4年間の学業の積み上げがあってはじめて可能になることです。また、卒業論文をまとめ上げる過程でさらに多くのことを学ぶことになります。そこでの大きな成長は、学士(文学)の学位を取得して卒業する学生にふさわしいものです。
テーマの決定、方法?観点の模索、考察の材料の収集、得られた考察結果をどのような構成で執筆するか、実際の執筆、これらの過程のすべてを自分のカで進めます。確かに楽ではありませんが、完成させた時の達成感はかけがえのないものです。
また、卒業論文のテーマを深めたいと思えば、大学院の博士前期課程に、さらに博士後期課程に進むこともできます。
卒業論文紹介
清輔?俊成の〈病み〉の違いに関する試論一述懐歌の表現の比較を通して一
文学部国文学科4年 N?Hさん

卒業論文では、藤原清輔と藤原俊成の述懐歌の表現を分析?比較し、特徴を見出すことで詠みかたの差異を明らかにしました。述懐歌とは、身の沈浦を嘆いた歌のことです。二年次に「清輔集」の述懐歌を読み、人生を嘆いている人が昔からいたのだと感動したことがテーマを選んだきっかけです。清輔?俊成それぞれの述懐歌を「景物と自己の同化?対比」「願望と関係のある助詞?助動詞の使用」「「身」の詠みかた」という三つの観点から、歌の語や歌の意味を分析し特定の表現の数及び割合を比較することで、二人の否定的状況に対する詠みかたの違いを考察しました。さらに、述懐歌に表現された身の嘆きを現代でいう「病み」と捉え、二人の述懐歌の詠みかたと生い立ちの関係から「病み」の違いを考察しました。その結果、清輔の「病み」は社会の中での自分の立場や他人との関係に対してであり、自尊心の高さから自分を傷つけないようにすること、俊成の「病み」は運命の前での無力な自分に対してであり、沈淮に陥っている自分自身を強く認識し感傷に浸ることである、という結論に至りました。卒論の執筆にあたり、熱心にご指導くださった舟見先生と、貴重な意見をたくさんくださったゼミの皆さんに心から感謝しています。
宮沢賢治の描く世界一賢治童話における色彩語一
文学部国文学科4年 U?Rさん

卒業論文では、宮沢賢治童話における色彩語を手掛かりに、彼の世界観や思想について検討しました。他の作家の作品に比べて賢治作品には色の種類や数が多く、特定の色を上位に位置づけていることなどから、そこから賢治らしい童話の世界を探ることができるのではないかと考えたためです。文章心理学、日本古典文学、児童文学それぞれの分野の先行研究をもとに、色彩語から文学作品をみることの意味について考察したのち、仏教的観点からみる白い花と、色聴共感覚によるものと思われる色のついた音に焦点を当てて研究をしました。賢治が意図して他の色より上位のものとして描いた白い花は、泥の中から出ても泥に染まらない白蓮華を連想させることから、古典文学と同様に賢治磁話における白も聖なる色であり、他の色を越えた唯一無二の色であると言えると結論づけました。共感覚に関しては、対象となる色のついた音の数が少なかったものの、やはり賢治の特異な感覚が彼の自由で独特な表現につながっているということがわかりました。主に賢治の仏教観から成り立った世界は、彼の共感覚と心象スケッチによって彼らしい比類なき表現となって表れていると言えると思います。ご指導くださった棚田先生には心から感謝しております。